米タワーレコードの栄枯盛衰を描いた映画「ALL THINGS MUST PASS」を観て考えたこと

音楽ビジネス、さらにいうとCDビジネスに携わっている方には特に必見の内容の、米国タワーレコードの歴史を描いたドキュメンタリー映画「ALL THINGS MUST PASS」を紹介します。

タイトルである「ALL THINGS MUST PASS(万物は流転する)」のように、
1960年に米国タワーレコードが誕生し、店舗の世界展開を拡大しCDバブルの到来と共に1999年には10億ドル以上を売り上げ、その5年後には日本を除くすべての店舗を閉じ破産申請をするまでを、創業者のラス・ソロモンはじめ、得意客であったエルトン・ジョン、元ワシントンDC店店員だったデイヴ・グロール(元Nirvana、現Foo Fighters)など長年TOWER RECORDSを愛してきたアーティストのインタビューなどを交え描かれています。ここでは、自分がこの映画を通して感じたことや考えたことを書きたいと思います。

タワレコのコンセプト:「人との交流と買い物」

作品内でも描かれているように、米タワレコは「人との交流と買い物」をコンセプトとして展開していました。タワレコに服装規定はなく当時の店員は「迷惑をかけない限り好きにやれた」と楽しそうに語っており、客側もタワレコに行くことが「まるで友人のよう」と表現しています。
「街に来て途方に暮れたならまずタワーレコードに行く。店員と客は互いの好みを知り音楽を学び、一緒にレコードを漁る。」
タワレコのコンセプトと自由な社風が、このような店員と客との音楽を通じたコミュニケーションを生み出していました。特に試聴室を使用していた時代では「試聴室の中でイチャつく人たちも多かった」とあるように、タワレコという場所が、客同士のコミュニケーションという点でも機能していたように思います。

店に行かなくても音楽が買える時代の到来

現在では、スマホ、mp3、サブスクリプションサービス(Spotify、Apple Musicなど)、amazonなどの普及により、スマホで音楽がいつどこでも買えて聴ける時代になりました。タワレコのコンセプトである「人との交流と買い物」のうちの「買い物」に関して、基本的には(店頭でしか買えない限定商品を除いて)インターネットで代行できるようになってしまいました。「人との交流」というのは店舗でしか実現できないものがあるのでインターネットより強みがあるとすればその部分だと思います。

何故日本には85店舗が継続して展開されており、アメリカでは閉鎖したのか?

多くの方が答える質問の回答として、
「アメリカでCDが売れなくなったから」
というのがあります。

「何故CDが売れなくなったのか?」の説明になっていないので、個人的にはこれではまだ理由として不十分だと考えています。
『CDを買うことが人とのコミュニケーションツールとして機能しなくなってきたから』
という方がより正確な説明だと考えています。

日本ではこれまで海外にはなかった革新的な発明を3つもしています。

①「カラオケ」
(カラオケ全盛期時代は特に)カラオケでヒットソングが歌えないと人とのコミュニケーションに支障をきたす。(当時はネットにも歌詞が載っていなかったので)歌詞を覚えるためにCDを買う
⇒人前で歌うというコミュニケーション

②「着うた」
自分の好きな楽曲を着信音に設定して他人に聴かせる。設定しているうちに気に入ってフル音源を聴くためにCDを買う
⇒人に聴かせるというコミュニケーション

③「握手券」
本人と握手するためにCDを買う
⇒本人と握手できるというコミュニケーション

これらはいずれも人とのコミュニケーションというのがきっかけになってCDを購入しています。最近の例だと、例えば「LINEスタンプ」で有料のLINEスタンプを購入している人というのは、物欲、所有欲、コレクション欲、ほとんどの方はこれらが理由で購入していません。多くの方は「相手に送ってあげたいから。」というコミュニケーション欲で購入しているのだと思います。人とのコミュニケーションには時代に関わらずお金を落とすので、日本では、今まで起こった時代の変化にも根強いCD文化を維持(②に関しては、着うたという別の音楽市場が維持できたという方が意味合いとして強いですが。)できたのだと思います。

「ALL THINGS MUST PASS(万物は流転する)」が起こったとしても、その時代に合わせて、
『人とのコミュニケーションツールとして機能する音楽商品を扱う、もしくは空間を提供する』
ということができていれば、米タワレコは存続できていたのかもしれません。
作中で創業者のラス・ソロモンが語っていた、
「とにかくCDやレコードの在庫をたくさん用意、タワレコには音楽が何でも揃っている」
という強みは、時代と共にインターネットに置き換わっていったように思います。

タワレコ渋谷店ではカフェを併設しておりますが、これはまさにコミュニケーションのための空間を提供しているのだと思います。「人との交流と買い物」というのが機能しやすくなります。最近のアパレルショップでは、同じようにカフェを併設していることが増えてきましたが、同様の理由があるように思います。

今後の音楽業界を盛り上げていくには

音楽業界が違法DLを取り締まったりする中で、今はなきCCCD(コピーコントロールCD)というのがありましたが、これは前述の、
『人とのコミュニケーションツールとして機能する音楽商品を扱う、もしくは空間を提供する』
に反していると思います。お金という対価を払った人たちに、その先に起こり得るコミュニケーションを制限しています。結果的に、対価を払った人はコピーを制限されて、違法DLした人はコピー制限はないという本末転倒なことになっていました。「北風と太陽」というイソップ寓話がありますが、「北風」的なアプローチは逆効果で、「太陽」的なアプローチをしていくことが必要だと思います。

では、現在のスマホ時代の中で、どういうアプローチをすれば音楽業界を盛り上げることができるのか?
それこそ「カラオケ」「着うた」でのコミュニケーション体験を、スマホならではの体験に置き換えることで解決できるように思います。

「カラオケ(人前で歌うというコミュニケーション体験)」では、そもそもカラオケ店でCD音源(原盤)を使って歌うことができません。最近、「まま音」というのも出てきましたが、これも結局はライブ音源なので原盤の本物の音源には敵いません。例えば、カラオケ店で自分のスマホアプリと連携(認証)することによってインスト音源(原盤)が歌えるようになるのであれば、そのアプリにお金を払う人はいるように思います。

また、「着うた(人に聴かせるというコミュニケーション体験)」でも、スタンプに音楽を貼って相手に送れたり、アプリの通知音を音楽にできたり、結婚式でショートムービーを作成した際に音楽をBGMとして流せたり(現在は著作権上の問題で原盤を流せないので。)、自分で作った動画に好きな音楽を貼りつけてWEB上にアップできたり、これらをユーザー側がお金を払ってでもやりたいと思っても、物理的にシステム側の問題であったり著作権上の問題でできなかったりします。自分が好きな音楽を友人に広めたい。お金を払ってでもやりたい。という層とうまく付き合う仕組みを作ることで新たな市場を生み出すことができるように思います。

最後に

「ALL THINGS MUST PASS(万物は流転する)」ということをこの映画を通して改めて考えさせられました。成功体験にとらわれず、現状維持をリスクと認識して、変化に対応していくということがどの業界にも必要だと思いました。ちょうど今世間では海外でリリースされて社会現象を起こしている「ポケモンGO」の話題で持ち切りですが、もし任天堂がハードウェアのパッケージビジネスだけにこだわっていたら、今のゲームは生まれていなかったと思います。(Pokemon GOは任天堂・岩田社長時代のエイプリルフール企画から始まった
「ALL THINGS MUST PASS(万物は流転する)」とはいっても、「変化するもの(テクノロジー)」「変化しないもの(コミュニケーション欲)」はあると考えているので、時代を通じて変化するもの変化しないものというものを見極めて、時代に合った変化をしていくことが重要だと思いました。